プロローグ

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貧乏人は、新しいサイズの服を買うのではなく、服に体型を合わせるべきだというものだ。 あの時、結局父親の体型が元に戻ることはなく、母の恵美子が新しい物を買っていた。 それは父親が、欲しいと言えずに苦し紛れに言った戒めだったのかもしれない。 おかげで、彼はセールだったとはいえ、良い物を買ってもらったと喜んでいた。 そう、父親の笑顔はこんなにも綺麗に脳裏に浮かぶ。 彼が今も元気に健在だということも理由かもしれない。 だが、それだけではない。 たとえ千絵自身が幼少時代の記憶の中でも、彼は笑っている。 記憶は常に入れ替わる。 何年も前のことを思い出そうとしても、そこに立っている顔は現在の物だったりするのだ。
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