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ライヴ当日。 待ち合わせ場所に、遅刻して来た光井の頭を、エフェクターの入ったケースで叩いているところに、我がバンドのワゴン車が到着した。 運転は内田さんだ。 ロバートが運転手を探していた時に、名乗りでてくれたそうだ。 助手席の窓を開けて、ロバートが顔を出した。 「乗って。ミーはお酒没収です」 「えー!やだよー!」 「リズムがダメになるよ。今日ミスしたら怒るよ」 「くぅ…」と呻いて、光井は酒の瓶をロバートに渡した。 他のメンバーは、さっさとワゴン車に乗りこんでいる。 ゆっくりと走り出す。 今まで黙っていた内田さんが、口を開いた。 「…よぉ」 ボソボソと、聞こえない。 「ん?」 「なに?」 「聞こえねぇよ!」 「もっと声はってよ」 いつもこうだ、内田さんは、顔を合わせて10分は緊張して声が出ない。 「お前ら元気か?今日のライヴ、楽しみだったんだ」 「マイク使いなよ。それよりさ、シングルの曲、後で聴いてよ」 「分かった。今回も激しいの期待してるぞ!」 ぞ!の語尾が上がる。 このオッサンは、楽器をやる人間と会うと緊張する体質なんだそうだ。 いまだに俺達と会うにも緊張するらしい。 理解に苦しむ。 「ごめん降ろして、吐く」光井が口を押さえながら、ドアのほうに来る。 急ブレーキ。 光井は勢いよくドアを開けて、外に飛び出して行った。
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