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延々と続く暑さに、嫌気がさし始めた午後。
メールを打ちながら、光井はジャックダニエルをらっぱ飲みしている。
「おい」
ウィスキーを口から離し、光井はポケットからタバコを取り出し始めた。
「なに~?」
「学校で酒飲んで、タバコを吸うな!」
「お前は堅いの~。問題な~す~」
「さっき、4組の田中が長谷部に連れてかれるの見たぞ」
「どこで?」
「ここで」
なぜ、軽音部の人間がジャズ研の部室で酒盛りをするのか、同じ軽音の自分にも分からない。
分かりたいとも思わないのだが、次々と生活指導の長谷部に捕まって、停学を喰らう部員達は、口を揃えてジャズ研部室の居心地の良さを誉め讃える。
とくに、代わり映えの無い部屋なのだが…。
俺と光井は、軽音部でバンドを組んでいる。
光井がドラムで、俺がギターだ。
入学してから1年経った。
2年生になってから、放課後になるとなぜかいつも酔っている光井や、他のメンバーの面倒を見つつ、かろうじて解散せずに活動している。
「耕輔は?」
「明日が停学明け」
「サンタは?」
「切れ痔で病院」
「春人はデート?」
「人妻とな」
「…練習できねぇじゃん!」
「お前が言うな!飲んだくれめ!」
ため息を一つ吐いて、俺は飲んだくれ光井の鞄を取る。
「とりあえず、教室行くぞ。ライヴ決まったから、放課後は耕輔の家な」
「ロバートの野郎、またライヴ入れたのか!?」
「来週から7本決まったってよ」
ロバートはシカゴからの留学生で、なぜか俺達のマネージャーを自称して、ライヴのブッキングその他をやっている。
奴自身もギタリストで軽音に入ったのに、俺達を気に入った不思議なアメリカ人だ。
「来月はレコーディングだってよ」
「契約書にサインしなけりゃいいんだよ」
「すまん」
「はぁ!?」
俺は、本心とは裏腹に、少しだけすまないような顔で言った。
「しといた、サイン」
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