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やる気の無い人間に、行動させる大変さを知っている人には、アメリカの契約社会はなかなかに便利なものに映ると思う。
問題児しかいないバンドというコミュニティの中で、自分以外のメンバーに同じ方向を見せるためには何かいい方法は無いかと、相談を持ちかけたロバートは、こう言った。
「晃、あなたは真面目だよ。他のメンバーも素晴らしいプレーヤー、でも不真面目ネ。同じことをするビジョンがちゃんと目に見えればいい。私とバンドと、契約制にしよう。私はライヴハウスやレコーディングの契約を君たちの代わりにする。契約書を交わして、逃げれなくする。さらに、君たちと契約書を交わす。破った時のペナルティいっぱいつけてね。ペナルティつけるから、みんなやるしかないよ。ちゃんとやりますって契約書も交わす。だから逃げれない。」
さすがはアメリカ生まれだと思う。
それ以来、俺達はロバートの受けるライヴやレコーディングを、ほぼ言われるがままに受けている。
もちろん、俺とロバートでちゃんと打ち合わせしているが。
インディーズでアルバムも二枚出した。
バンドの人気は上がっている。
ちゃっかり者のロバートのおかげで、不自由しない程度の小遣いも入って来る。
教室に戻ると、昼休みの終わりを告げるチャイムが響いた。
前の席のロバートは、なにやら古いブルースを歌いながら、制服のボタンを縫い付けている。器用だ。
「晃、みんな集まる?」
「光井が逃げなければな」
「ミーは私が捕まえるよ。晃は春人を逃がさないでね」
「あいつは大丈夫、今日ご機嫌だから。」
「今日もデート?」
「人妻とな」
「Oh!今度は何歳?」
「34だとさ」
「春人はCrazyね」
教師が入ってくるのに合わせて、ロバートは前を向いた。
Crazy。たしかに、メンバーみんなクレイジーだ。
仕方ないのかもしれないと思う。
世界がこんなに狂っているのだから。
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