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――目を閉じ、耳を澄ます。
―ザー…
雨の…音が聞こえる。
雨はいつも、理由もなく空から降ってくる…
「ふぅ…」
一度、目を開けてからその状態のまま耳を澄ましてみる…
―ジャー
すぐそばから、水の流れる音がする。
それは食器を洗うために水道の蛇口から水を故意に流し続けているから。
ふと、食器を洗う少年は、天井のその先さえも見透かすように真上を見上げた。
「……」
希望もなく、絶望もなく、心を焦がす情熱もない。
赤城千晴の世界は、それこそ痛みのない地獄だった。
(今日も…雨)
お似合いだと言わんばかりに…今日の天候は最悪だ。
最近は梅雨に入り始めたばかりで、にわか雨が続いていたが、今日に限っては豪雨だった。
…せめて、誕生日の日くらいは晴れていて欲しかったが、べつにわざわざ家におしかけてまで誕生日を祝ってくれるほど親しい友人はいなかったから、今日はただ、気分的に晴れていて欲しかった程度にしか思わなかった。
―キュ、
千晴は蛇口の栓を閉めた。
「…あの、お姉ちゃん……お皿、洗ったよ…」
振り向き、学校の制服の上からエプロン姿の千晴はリビングでソファーに座ってさほど興味なさげに黙々とテレビの画面を見つめ続けている姉の赤城鈴に声をかけた。
「ん、ありがと」
返ってきたのはそっけない返事だけで、視線はテレビの画面に固定されたままだ。
「あ…う、うん」
一言、二言…必要最低限の言葉を交わしただけで二人の会話は終了した。
普段通りの会話。
しかし、千晴は物足りなさを感じた。
すると、制服姿の鈴がソファーから立ち上がり、鞄を持った。
…7時50分。
時間帯的に考えて鈴はこれから学校に行くのだろう。
千晴は焦った。
「あ、あの…!」
「何?」
思わず呼び止めてしまった。
自分は何を期待しているのだろうか…
鈴に頼まれた訳ではないのに皿洗いをしたのは今日が自分の誕生日だから?
「ううん…なんでもない。…ごめん」
なんだか見返りでプレゼントをねだってるみたいで、そんな自分に嫌気が差した。
「そう…先に学校行くわね」
やはりそっけなく鈴がそう言ってから、一分もしないうちに玄関の方からドアの開く音とドアの閉まる音が聞こえた気がした。
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