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支度を済ませた千晴は玄関を出ると、傘を差してトボトボとした足取りで学校へ向かって歩き出した。
いつもとは違い今日は遅めに家を出た方だ。
学校に遅れぬよう少しだけ歩く速度を速める……もつかの間、
―ばんっ
「おはよーさん♪」
背後から底抜けに明るい声が聞こえたかと思うと同時に背中に鈍い痛みが走った。
「はぐう……!?」
不意打ち。
千晴はその場で立ち止まる。
背中がジンジンする…どうやら、平手打ちをされたようだ。
「お…、すまんすまん。力加減間違えたわ」
涙目で後ろを振り返った千晴に、軽く頭を下げた少年…安藤 翼は頭を上げるとニカっと笑った。
「あ、ちょっとタンマな」
すると、安藤は自身の鞄の中を手で探り始めた。
ガサガサっと鞄の中を探るたびにお菓子の包み紙などが下に落ちている。
想像もしたくないその鞄の中身の散らかり様に思わず千晴は呆れた。
(掃除嫌い…なのかな)
彼とは些細なことがきっかけで友達になった。
さほど印象の強い出会い方でもないので、割愛する。
「…………っと、ほら」
目的の物が見つかったのか、安藤は鞄の中から綺麗に包装された厚さの薄い長方形型の箱を千晴に手渡した。
「…?なに、これ」
きょとんとした表情で安藤から受け取った箱を凝視する。
「ばっか、今日はお前の誕生日だろ」
照れてるのか、安藤は視線を千晴から僅かに逸らした。
「え…」
今日が誕生日なんて一言も言ってないはず。安藤の行動に千晴はかなり驚いた。
「…あ、ありがとう」
「おう」
すごく嬉しい。
なおさら箱の中身に興味を持つ。
…なんだかドキドキする。
「…開けても…いい?」
おずおずと、千晴の手が箱へ伸びた瞬間、突然安藤があわて始めた。
「あ……えっとな…まあ、それは帰ってからのお楽しみってコトでさ!んじゃな」
「え、あ…、ちょ――」
妙にソワソワとした様子の安藤が千晴の肩を軽くポンポン叩くと、千晴をその場に残して、雨の中を駆け足で先に学校に行ってしまった……
突如、嵐のように現れ又も嵐のごとく去っていく安藤の後ろ姿を呆然としばらく見つめていたが、
(なんだろう…?)
やがて、安藤の姿が完全に見えなくなると、誕生日プレゼントに視線を移した。
『それは帰ってからのお楽しみってコトでさ!』
「――!」
好奇心で箱の包みに手が伸びたが、その瞬間、安藤の言葉が脳内をよぎった。
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