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一限目の授業開始の五分前に学校のチャイムが鳴り響いたのと同時に疲れきった表情をした千晴が教室に入ってきた。
「はあ、はふぅ…………ハア」
そして、自分の席に座ると、千晴は机の表面に顎を乗せて、だらしなくため息をついた。
「あの……ため息をつきますと幸せが逃げていきますよ?」
すると、千晴の頭上から女の子の声が聞こえた。
…正確には声をかけられた。
「え?」
ほんわりとした声色で、いわゆる癒し系。
「穂村さん…?」
顔を見上げると、目の前に穂村 由里の姿。
彼女は最初、ため息をついていた千晴を心配そうな様子で見ていたが…
「ふふ…おはようございます。赤城さん」
きょとんとした表情の千晴の顔を見ると、彼女は心配そうな表情から笑顔に変わり、微笑みながら千晴に軽くお辞儀をした。
「う、うん。お…おはよう穂村さん」
由里につられて千晴もぎこちなくだが、微笑んでみせた。
「朝から疲れた顔をしてるなーと思ってたら…今度は何ニヤついてるのよバカ」
千晴の後ろから少女が来て、そう言いながら千晴の正面にいる由里の隣りに並んだ。
―フワ…
まるで、黒真珠のような艶やかな長い髪をなびかせるように軽く手ではらうと腰に手をあて、可愛らしいつり目が千晴の姿を真っ直ぐに捉えた。
…彼女は黒川 麻奈。
小さい頃からの千晴の幼なじみだ。
「えっ…!?」
千晴は素早く頬に手をのせて、確認していくように周辺を触っていくが、口角は上がってはいなかった。
「に…ニヤついてなんかないよ……!」
もし、由里へ向けた微笑みが麻奈にとってはニヤニヤしていたように見えてたのだとしたら、それは…なんか安藤みたいだから…
(………………)
考えてみただけでフクザツな心境になってしまった。
「全く…どうせ、ヘンなことでも考えてたんでしょ」
何故か不機嫌そうに麻奈は窓側にぷいっとそっぽを向いた…
(?……どうしたんだろ)
千晴は無意識に首を横に傾げ、頭の中を巡らせ考えてみるが、由里を除いた鈍感な千晴にはやはり分からなかった。
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