第一章「辰己 仁」

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「プァ~~~チンチンチンチンチンチン 次は南霞町~ 南霞町~ プシュー」 「ふぅ~」 暑い真夏日… 数年前に暴力事件を起こし出所… そのまま行く当てもなくぶらりと降りたこの町… 南霞町… 数年後に西成暴動事件にて大損害を受ける「太子」の交差点に存在する駅である… 「ここが西成か…とりあえず喉が渇いたなビールでも飲むか」 酒と提灯の上がった五畳程の小さい店が目にとまった… 酒屋の店主「いらしゃーい」 仁 「ビールおくれ」 店には一人だけの客が居る… 店主「はいよっ!」 ゴクゴク… くはっ~ 汗ばみ熱を帯びた体にビールが滲みる 仁 「やっぱり夏のビールは最高やなぁ… おやっさん、この辺て泊まれるような所あるんかいな?」 店主 「何やアンタ!ここらの人と違うんかいな? ここらは終戦後から労働者達がどんどん集まって来て最近は特に仕事と酒に埋もれた町やから立ち飲み屋も昼から開いとるし泊まれる宿もよーさんある。自由気ままな町や!このひとつ裏に行ってみ!」 仁「そうか。おおきに」 店主 「ココラの事は全然知らんのんかいな?」 仁「ちょっと間 世間離れとってなぁー 話も聞いた事ないわ…ここ最近の事やろ?」店主の目付きが変わる… 「そうか。何や色々訳ありかいな? 一緒にする訳やないけどココラは見ての通り色々な理由抱えて訪れる人間も居るし、危ない奴らも中には居るから、気ぃつけや」 仁「ほぉ~ そらオモロイ所やのー そういや、さっきも目付きの悪い奴らすれ違ごうたわ(笑)ここに来て人と話したんはおやっさんが始めてや…また来るわ」 店主「おおきにな」 ガラガラ~ 仁「さぁ~どないしよか …オッサンが言うとった 一本裏の道でも行ってみるか」 辺りを見回すとポツポツと日雇い労働者達の姿が目に映る … 酒を食らう者… 三人程で道端の端に座り込み将棋をする者… 浮浪者らしき者… 回りを見渡しながら歩きふと前方を見た… グッと仁の眉間にシワがよった…
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