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マスターの言った通り、バーボンには合わなかったが、男は満足だった。
マスターはタバコを取りだし、火を点けた。
まさに一服という感じで、煙を吐き出す。
「奥さんは店手伝ったりされないんですか?」
男の問いに、マスターは少し寂しげに目を細めた。
「他界しましてね。心臓麻痺で……。当時、AEDは一般化されてなかったんですよね。救急救命士ぐらいしか使えなかったし……」
マスターが奥に佇むAEDの白いボックスに目をやった。
「……すみません」
男は場違いなAEDの存在にようやく納得できた。
妻を救えなかったマスターの気持ちが、そこに置かれているのだ。
「気にしないで下さい。おかわり入れますね?」
頷く男のグラスを、マスターは笑顔で引き取った。
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