バーにて

4/11
前へ
/36ページ
次へ
奥のドアの横には、バーにはおよそ場違いとも言えるAED──自動体外式除細動器が設置されている。 非常に珍しい光景だ。 老人客が多いのだろうかと、男はしばらく目を離せずにいた。 タバコをくわえ、近くにあった黒塗りされた正方形のガラス灰皿を引き寄せる。 中にあった紙マッチを取りだし、タバコに火をつけた。 マッチには電話番号が書いてあり、下4桁がバー名である『7289』になっていた。 バーボンのロックを注文し、紫煙と落ち着いた空間を楽しむ。 そして、運ばれたバーボンが、見知らぬ街という認識を男の頭から消した。 男の喉を冷たく熱いものが通り過ぎる。 明日は午前中に『澄川レーヨン』と商談がある。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

266人が本棚に入れています
本棚に追加