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奥のドアの横には、バーにはおよそ場違いとも言えるAED──自動体外式除細動器が設置されている。
非常に珍しい光景だ。
老人客が多いのだろうかと、男はしばらく目を離せずにいた。
タバコをくわえ、近くにあった黒塗りされた正方形のガラス灰皿を引き寄せる。
中にあった紙マッチを取りだし、タバコに火をつけた。
マッチには電話番号が書いてあり、下4桁がバー名である『7289』になっていた。
バーボンのロックを注文し、紫煙と落ち着いた空間を楽しむ。
そして、運ばれたバーボンが、見知らぬ街という認識を男の頭から消した。
男の喉を冷たく熱いものが通り過ぎる。
明日は午前中に『澄川レーヨン』と商談がある。
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