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企業戦士の休息という言葉に男は酔っていた。
もう少し若ければ、女を抱きに行ってたかもしれない。
しかし、男には30歳になった自覚ができていた。
バカ騒ぎできた20代の頃とは違う。
ましてや、仕事でこの街に来ているのだ。
バーで軽くアルコールを楽しむくらいが丁度良かった。
「出張ですか?」
男がテレビの映像を眺めていると、マスターが声をかけた。
低く甘い声だ。
歳は40代半ば。
白いものが混じった顎髭は整えられており、揉み上げと繋がっている。
色黒で彫りの深い顔。
柔らかい人当たりと声が、バー経営の経験を感じさせた。
「わかりますか?」
男は斜め前に来たマスターを見据えた。
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