14人が本棚に入れています
本棚に追加
『今日は月の写真なんですね。』
どうせいくら待っても、雅から『ありがとう』なんて出てくるはずもないので、話題を写真へとかえる。
雅と葵は、よくこうして二人で写真集をみる。別に二人は写真集が特別に好きなわけではない。二人は基本的には小説がすきで、ミステリー、恋愛、エッセイ、なんでも読む。でも二人で小説を読むのは難しいし、読むスピードが違えば、同じ場面を共有することができない。
だから写真を一枚ずつ、二人で眺める。
それについて多くを語りあうわけでもないが、放課後はだいたいこうしている。
人気のない、少し埃っぽい図書室の一番奥。
窓の外から微かに聞こえて来る運動部員の掛け声と、カーテンの隙間からかすかにはいる西日のなかで、二人は写真の中の満月を見つめていた。
最初のコメントを投稿しよう!