夢のかけら

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「どうしたんだ?お前、大丈夫か?」 同僚に声をかけられ、はっと我に返った。 そしてようやく自分が涙を流していることに気づく。 目にゴミが入った、と言い訳をしてトイレへと駆け込んだ。 顔に乱暴に水をかけて洗い流すと、先ほどまで怒涛のように押し寄せてきた感情は跡形もなく消えていた。 けれど、胸に残る違和感。 個室へ入り、シャツを捲くりあげて確かめる。 ぎょっとした。 乳房の中央から下へ、一筋の白い液が垂れていた。 まぎれもなく、乳だった。 結局その日は体調不良といって仕事を早退し、その足で病院へ駆け込んだ。 どこの科にかかればよいかわからず、とりあえず内科の受診をした。 医者が言うには男でも乳腺の状態で乳が出ることがあるのだそうだ。 異常ではないが、もし痛みが出たり同じことが続くようであれば精密検査を受けるよう進められてその日は帰宅した。 肉体はひどく疲労して睡眠を欲しており、早々に床につくことにした。 そして、夢を見た。 血が凍る程恐ろしく、 身が引き裂かれそうな程切なく、 それでいて、息を呑む程美しい夢。
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