鹿堂 咲の反響[Ⅰ]

2/7
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
それは、星が疎らに顔を出す程度の、どんよりした夜のこと。 「で……、なんであたしは追っかけられてるわけ?」 若干呼吸を乱しながらも、ついつい呟いてしまう。 いまいち状況が掴めていない。 ……オーケー、整理しようか。 とりあえず、いま解っていること、把握できていることは3つ。 『今が午後8時21分であること』 これはさっきスナックの電光看板に表示されていたから。正確とまではいかないが、せいぜい誤差前後2、3分といったところだろう。 『朝ご飯を食べて以降、今日はなにも口にしていない』 これはお財布を自宅に忘れてきたから。ああ、お腹空いたな、なんて思っているあたしには結構余裕があるのかもしれない。 と、ここまではいいだろう、誰もが日常で体験する、言うなれば些事である。 だが。 『黄色い雨合羽に追われている』 これが一番理解できない。 理不尽である。実に理不尽である。中学校にあがった頃から他人にはなるべく距離を置いて生きてきたあたしが、誰かになにか恨みを買うようなことをしたとはちょっと考えられない。 もっとも、それ以前なら話は別だけど。 ていうか、アレはそういうのじゃない気がするんだな、これが。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!