あの日あの時あの瞬間

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 9回表で、まさかの大逆転負け。  ――もはや、正気を保てなかった来栖ナインに勝ち目はなかった。  ――来栖高校のメンバーは、誰一人泣き崩れること無く、無表情で――ありながら唇を噛みしめて最後の挨拶を終えた。  試合後は異例の事態。マスコミのインタビューが、相手の監督にだけ異常なまでに殺到。俺達のチームには一社も来なかった。  そんな試合後に、来栖高校が高野連から受けた宣告、それは半年間の野球部としての部活動を一切禁止。もちろん、あの乱闘が原因だ。  その後学校の意向により、野球部の朝練を一年間中止。そして、齋藤監督は諸事情による辞任――という建て前で辞めさせられた。  OBも沢山見に来ていたために、当然OBにも嫌われて差し入れも減った。  そして、最も野球部に激震が走ったのは、二年生の退部だ。笠蕗先輩を除いて、全員が野球部を辞めた。  確かに、高校野球で半年間練習出来ないのは大きなハンディキャップになってしまうし、なによりあんな試合の後に野球を続ける気になる方が無理というものだ。今まで一番世話になった先輩があんな負け方をしてはショックも大きいだろう。野球を嫌いになった人もいるんじゃないだろうか。  そして、三年生は引退し、野球部は俺達一年生が主力となったのだ。  あの日からだろうか、目覚まし時計のアラームが狂ってしまったのは。  あの時からだろうか、俺が目覚まし時計を使わないと朝起きれなくなったのは。  あの瞬間からに違いない、俺達の歯車が狂ってしまったのは。
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