始動

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遅咲きの桜に迎えられ、子供達の表情は複雑に彩られる。 期待、不安、誇り、淋しさ恐れ。 それらを胸に押し込めた彼らの表情は、若々しい凛々しさが滲み出て、僕は思わず頬を緩めた。 「お、おはようございます!」 うわずり気味の声に下げた視線は、隣りのキチッと制服を着る新入生の姿を捕らえた。 「お、おう、おはよう!入学おめでとうな」 笑って挨拶を返すと頬を染めた少女二人が、ありがとうございます!と言い走って行った。 前方に動いたこのノリの利いた制服達も、一週間後には乱れた今時風に形を変えると思うと、なんとなくおかしくなる。 「あ―隆が一人でニヤ付いてる。キモ!」 「こら!隆じゃなくて神梨先生だろうが!」 「えー隆は隆じゃん!」 突然背中を叩かれたと思ったらこれだ。目線は今度は下がらない。追い越しながら笑う去年の新入生―平山隼人―は足早に駆けて行く。 先程とは真逆の、だらしない制服姿だった。
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