第十五章

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「そう」 外はちょっとだけじめっとして、暑い。 春風が甘い紅茶の匂いを運ぶ。 「亜希さんは?」 「私?」 亜希は口の端を歪めて、笑顔を作るが、それは全く笑っていない。 「私は、好き、という感情じゃないから」 リツカも私も、閉口してしまう。 彼女の考えていることが、なにひとつわからない。 亜希が歩き出し、私たちもついていく。 遠くに見える川面が、反射して眩しい。 空には、雲ひとつない青空が、夕闇の色にのまれつつあった。
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