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「そうね。…でも、記憶の無い私と、いまの私が別人だとしたら?」
「…それは」
亜希は楽しそうに頬杖をつきこちらを見ている。
「…そんなの…屁理屈です」
私は自分でも驚くくらい強気だった。
それがリツカの掌のせいなのか、必死だからなのか、わからないけれど。
「屁理屈か…。確かにそうかもね?」
「あのな亜希。もう私にはルカがいるんだから…、亜希の恋人じゃないんだ」
「…ん」
小さく頷く亜希はいつもの笑顔のままなのに、どこか寂し気だ。
「記憶がない間、私すっごくイライラしてたの。思い出せない歯痒さだけじゃなくて、動かせないのにひどく疲れてる身体とか、毎度見舞いに来る知らない人とか、変えられない顔とかね」
亜希は少しだけコーヒーを啜る。
クーラーが静かに冷風を吐いている。
「だからリツがすごく欝陶しくて、目障りで、仕方なかった。だからあんなこと言って。…ごめんね?」
リツカはどんな表情をしているのだろう。
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