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「…だからなんなんだ。そんなの、どうでもいいこと」
亜希はカップを掲げた。
カップにあったコーヒーを机にぶちまける。
「覆水盆に返らず?」
店員が駆け寄って、机を拭きはじめる。
私には、彼女がなにを考えているのかわからない。
「だったらいいわ。私は手に入らないものは嫌いなの、いらない。でも」
亜希は一瞬、黒い笑顔を浮かべる。
私に握手を求めるみたいに手を差し出した。
「手に入れようとして、最後まで手に入らないのはもっと嫌い」
矛盾してるでしょ、と言って笑う。
私の顔は凍ったまま。
リツカの掌だけが温かい。
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