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一足先に授業を終えた女子達がグラウンドの脇から応援してくれていることに、やる気が出ないかと言われればそんなわけは無かった。
でもそんなこと口にした矢先には湊なんかには「このリア充め」なんて言われかねないので彼女の前では常にお口のチャックは気にかけなければならない。
とにかく、
燦々と降るどろっとした炎熱の中。或いはグラウンドの上。対峙するその間合いが、じりじりと緊迫したものに埋め尽くされて行くそれはまさに真剣勝負そのものだった。
ソフトボールである。もちろん、ただの体育の授業の中でのことである。
だが授業の中とは言え、勝負であることに変わりは無い。燈弥は一つ瞑目して相手を見た。その奥に構えられた黒いミット。その中心――すっ、とうなずき、それを見据えた。
既にチャイムは鳴った。これが正真正銘最後の一投だった。
ランナーは2・3塁。
打たれれば終わりだったが、打ち取れればそれでこちらの勝ちだった。
つ――、と汗が頬を伝う。内から突き刺すような鼓動の針が、しきりに胸を突く。青く澄み渡る空が、その開放的な色がいつにもまして羨ましく思えると共に、無性に鬱陶しくも思えた。
――考えるな
ぴしゃりと燈弥は自分に言い聞かせた。目は真っ直ぐに前を向いていた。
――ただ思いっきり
「いけっ!!」
ベンチの者らの声が一斉に合唱。シンクロするようにして、燈弥の右手から小太りの白球が放たれた。
誰もがその一瞬、息を飲んだのが燈弥には分かった。刹那が永遠に感じられた。
そして永遠を切り刻むように鋭く一閃。
金属が弾ける音がグラウンドを貫いた。咄嗟に叫んだ。
「ショート!!」
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