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 冬の終りから春の始まりへとさしかかりだした、爽やかに晴れた少し暖かい日の午後。 とある病院の、とある病室で、四人部屋の一番奥にある患者のいなくなったベッドを、次の患者がいつ来てもいい様に清潔にベッドメイキングをしていると、誰かが病室に入ってきたのです。 入ってきたのは真っ黒な喪服に身を包み、疲れきった顔をした、まだ若い綺麗な女性でした。眼の周りは腫れ、クマも出来ていました。しかしそれでも清楚さは損われてはいませんでした。 そしてその手には菊の花束が握られていました。 残りの3床には患者が寝ていますが、そのお見舞いには見えません。 普通菊の花なんて、お見舞いには持ってこないのですから。 ですから私は不審者を見る眼でその女性を見たのです。 するとその女性は、私の方へとゆっくり、それでいて確りと近づいてきました。 「あの、どうされました?」 私はこの不審な女性に笑顔で問い掛けました。内心は困惑していましたが……。 すると彼女は私の顔をちらっと見ると、今私の存在に気付いたかの様に「あっ」と弱々しく小声で呟いたのです。そして、今にも消えそうな声で彼女は言いました。 「あの……このお花を飾らせて頂けないでしょうか?」
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