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菊の花をこのベッドに飾る?
「もしかして、ここにいらした……」
「はい、知人です」
私が全てを言い切る前に彼女は回答したのでした。
「ですが、菊の花は……」
他の患者がいるこの部屋に、菊の花を飾るなんてもってのほかです。この中には来年生きているかどうかも分からない様な患者もいらっしゃいます。菊の花を飾るなんて縁起の悪いことは出来ません。
しかし、彼女は強い瞳で私を見ています。言葉では何も発しませんでしたが、どうしてもこの花を置かなくてはならないという、強い意思が感じられました。
しかしそれはどうしても出来ません。その様な旨を、遠回しにオブラートに包みながら彼女伝えました。
彼女は悲しそう顔をしていました。私も出来るものならそうしてやりたい。だけど、他の患者の事を考えるとそうせざるを得なかったのです。
しかし、彼女は全く引き下がる気はないようで、真っ直ぐに私を……いえ、もしかすると、私の後ろにあるベッドを眺めていたのかもしれません。
私はもうどうすることもできず困り果てました。すると向かいのベッドに座っていた、高齢の男性が声を掛けてきたのです。
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