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ナースステーションに戻った私は、あのベッドに昨日までいた患者の事を思い出しました。 あのベッドにいたのはまだ20代半ば過ぎの若い男性。確か、末期がんの患者だったと思います。 抗がん剤の影響で髪は全て無くなっており、いつもニット帽を被っていました。 そして、その患者の事を思い出している内にいつも、お見舞いに来ていた女性を思い出しました。 綺麗で色白で、笑うと右頬に笑窪ができる印象的な女性。女優の様な清楚さを持ち合わせいたため、私もよく覚えています。 そして今日来た女性でもあるのですが、疲れきった顔でしたので、少し印象が変わって見えてしまい、気付くのに時間が掛かってしまいました。 今日はノーメイクであったのも一因ではあるのですが。 そして、昨日の朝早くあの男性は亡くなりました。おそらく今日はお通夜。 きっとあの女性は最後に亡くなった場所に花を添えに来たのだと思います。 なんて健気で純粋なんでしょう。私はそう思い。ひとりナースステーションで妄想に更けました。看護師長にバレないことを祈りながら……。
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