7/11
前へ
/11ページ
次へ
翌日の夕方に彼女は再び病院に現れました。ナースステーションの前を歩いているのを見かけたのです。 昨日置いた花を片付けに来たのだろうと、私は思っていました。 様子を伺いに行きたいと思ったのですが、ナースコールが鳴ったため、私は違う病室に行ってから、彼女のいるであろう病室へと向かいました。 病室に入ると彼女はもういませんでした。 しかしベッドにある花瓶には新しい菊の花が入っていました。新鮮で生き生きとした菊の花が……。 私は片付けるだろうと思っていました。一日だけだろうと思っていました。最後に供る花だろうと思っていました。 しかし違っていました。今日また彼女は新しい花を持ってきたのでした。 この行為はいつまで続くのでしょうか?彼女の心の整理がつくまででしょうか?それとも新しい患者が入るまででしょうか? はっきり言って迷惑でした。だけど、花を片付けることは私にはできませんでした。故人への思いを私が勝手に片付ける訳にはいきません。 「あの蓮本さん?彼女今日も来ましたよね?何かしゃべりましたか?」 私は目を開け、ベッドで横になっている蓮本さんに、優しい口調で尋ねてみました。きっとこの時の私の眼は怖かったと思います。優しい口調のつもりだけで全然優しくありませんでしたから。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加