開戦83日後

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北海道苫小牧。 祖父が始めた牧場は、それほど広くないものの、一家6人と5人の従業員とその家族が暮らすには十分な収入はあった。 朝食も終わり、母はキッチンで洗い物をしていた。 ダイニングテーブルの上に残ったままの皿を取りながら、母はふと顔を上げる。 視線の先… リビングの暖炉の上にはスキーウェアを着て満面の笑顔でトロフィーを抱えた小学生の写真が置いてある。 「隆弘11才。子供スキー大会にて」 写真にはそう添えてあった。 母はしばらく写真を見つめると再びキッチンへと足を向ける。 『竹内牧場』 そう書かれた看板の前に1台の黒いセダンが停車した。 母は人の気配を感じ、キッチンの窓から外を覗く。 セダンから歩いてくるのは濃緑色のスーツに制帽を被った男が2人。 母はその2人のスーツの黒い腕章を見つけた瞬間からしばらくの記憶が全くない。 ダイニングでコーヒーを飲んでいた長男の話に依れば、母は窓を見つめたまましばらく動かず、チャイムの音にも虚ろ声で微かに返事しただけであった。 玄関で男達から言葉をかけられ、母はその場に座り込んで号泣したと言う。 その光景を見た長男は全てを理解した。 「そっか…死んだのか…」
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