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「あ、間違えた…」
あれから2週間は過ぎただろうか。
放課後はつい癖で美術室へ向かってしまう事が度々あった。
「バカか俺は…」
今日もうっかり美術室まで来てしまった。
…まあいい、中に居る先輩の姿をこっそり見てから帰ろう。
間違えて此処に来てしまった時はいつもそうしている。
こそこそしなくても、普通に会いに来れば良いのだろうけど
「モデル」という口実が無い今は、訪ねて行って先輩に少しでも迷惑に思われたらと思うと怖い。
(先輩、今日来てるかな…)
ドアに近付くと笑い声が聴こえてきた。女子の声だ。
他の部員だろうか。先輩以外の部員は滅多に居ないのでめずらしい。
教室のドアの窓をそっと覗いてみる。
先輩と女の子が向かい合って座っているのが見えた。
先輩は此方に背を向けているので表情はわからない。
声も、女の子の甲高くて大きいものしか聞き取れない。
先輩は彼女の話しに相槌をうちながら、キャンバスの上で手を動かしている。
(ああなんだ、もう新しいモデル、居たのか。)
彼女は化粧が濃いが、美人だ。先輩に夢中といった様子で、殆んど一方的に喋り続けている。
(何だよ…俺の事いつも綺麗だってしつこい位言ってたくせに)
楽しそうに談笑する二人を見ていたくなくて、引き返そうとドアに背を向けたその時
少女の声のトーンが変わった。
「ねえ、志野先輩。どうして今まであんな地味なヤツ、モデルにしてたの?男だしさぁ。つまんなくなかった?やっぱりオンナのあたしの方が描いてて楽しんじゃない?」
その言葉に頭を殴られた気がした。
「ねえ先輩、あたし、先輩ならヌードもオッケーだよ?」
誘うように艶を帯びた声と上目遣い。
もう、それを見ている事が堪え難く、俺は美術室を後にした。
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