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  美術室の、先輩の机と向かい合った椅子。 あの場所に、数週間前までは俺が居た。 俺が居たのに… 俺の場所だったのに。 先輩はあの場所で、あの子とも手作りのお菓子を食べたりするのか…。 "美味しいかい?" あの優しい笑顔も、あの少女へと向けられるのか。 先輩はスケッチに飽きたのではなく、俺を描く事に飽きたのだ。 "どうして今まであんな地味なヤツ、モデルにしてたの?" 「まったくだよ…」 先輩があんまり俺の事を綺麗だの魅力的だの言うから、自惚れていたのかもしれない。 俺は、あの少女の言う通り、地味で何も取り柄の無いつまらない人間なのに。 "先輩ならヌードもオッケーだよ?" 俺があんな事言ったら、絶対嫌われる。 (あの子、先輩と寝たいのかな) 身体で先輩の気が引けるなら、俺だっていくらでも差し出すのに。 (つか、何考えてんだろ) 「俺、男なのにさ」 こんな風に思う事すら、許されない筈なのに。 「…っ」 何なの俺…? どこの恋する乙女? 「…ふ、あはは」 何だか自分が滑稽で笑えてくる。 俺には先輩にアプローチする資格さえ無いというのに… 気が付くと、俺はいつの間にか3年教室棟まで来ていた。 (…逃げてきた場所がこことか。) どんだけ間抜けなんだ俺は。 (先輩って何組だっけ?) ぼんやりと考えていると 「おい、君」 突然声をかけられた。 「え」 声のする方へ振り向くと 「ああやっぱり。君、王子のモデルのコだな」 いきなりそんな事を言われた。 「王子?」 「ああ、志野のあだ名だよ。あいつ、本当に絵本から出てきたみたいだからさ」  
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