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「んーでもさ、王子。このまま、あの子避け続けるつもりか?」
「…でも、それしか方法が…」
「でもあの子、お前に嫌われたと思って死にそうな顔してたぜ?ちゃんと言い訳するなりしないと、本当に取り返しつかなくなるぞ?」
「え…お前、染谷と喋ったの…?」
阿木は僕の質問には答えず
「傷付けないようにって距離取って、余計に傷付けてたら意味ないだろうよ」
「…でも染谷は、モデルを断ると清々したって顔してた」
これでやっと解放されるとも言っていた。
「だから…」
「ふーん?…で、お前はソレを馬鹿正直に受け止めたって訳ね」
「………」
「まあいいさ。俺の忠告無視して、卒業までこのままの状態でいたいならご自由に」
そんじゃ、俺はこれからデートに行って参りますよ。そう言って彼は、ひらひらと手を振りながら部室を出ていった。
…と、思ったらドアからひょこりと顔だけを覗かせて
「まあ、志野なら大丈夫さ。俺はお前を信じてるからな。成るように成るだろう。せいぜい頑張りたまえよ」
そう言い残して、今度は急いで部室を去っていった。
実に奴らしい。
何だかんだ言って、僕を心配してくれているのだ。
良い奴だ。
「そうだな…頑張らなきゃな」
このままの状態を続けていたって、何も意味がない。
染谷にちゃんと、本当の事を言うべきだ。
それから、きっちりフラれて、もうモデルは無理としても、また友達になって欲しいと言おう。
噂だって、その都度訂正して回れば良い。
そうした方が、きっと今の状態よりずっと良いに決まっている。
「そうとなったら『善は急げ』、だ。」
阿木に背中を押された僕は、前向きな気持ちと共に、座っていた椅子から腰を上げた。
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