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彼女が指定した場所は、美術準備室だった。
部室のすぐ隣にあるそこは
画材や美術道具、資料等が雑然と置かれていて、少し埃っぽい。
彼女はどうやら美術部の部員らしい。
準備室の鍵を持っていた。
部室ではなく、あえて此処を選んだのは、もしも先輩と鉢合わせたら気まずいからだろうか。
彼女は先輩に恋心を寄せているという。
例の噂を聞き、俺と先輩の関係がどうしても気になったらしい。
しかし、先輩から直接聞く勇気も無く、俺から真相を聞きたかったのだと言った。
「なんだぁ、良かったあ…!やっぱりただの噂だったんだぁ」
彼女は胸を撫で下ろす様に息を吐いた。
大きな瞳に、うっすらと涙さえ浮かべて可愛らしいなと思う。
恋する女の子だ…
本気で先輩を好きなんだな。
そう思うと、少し胸がちくりとした。
「全く、迷惑な話だよ。先輩がホモなわけないってのに。俺までホモだと思われたら堪ったもんじゃないね」
彼女を安心させる為に、俺が少し大袈裟に言うと
「あはは、そうだよねぇ。誰だろね?こんな気持ち悪い噂流したの」
少女は無邪気に笑った。
「…そうだね。ホント誰だろな?」
彼女が何気無く言った言葉が、思わず俺の心臓を引っ掻いた。
「私さ、ホモとかって理解できない。男同士でSEXもするんだって。吐き気がする」
声が低く冷たい悪意の籠る物に変化した。
少女の、可愛らしくふわふわした外見に似つかわしくない、生々しい単語が吐き出された事に絶句する。
すると少女はにこりと微笑んで
「だから邪魔しないで」
そう言うと、じゃあね。と準備室を出ていってしまった。
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