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緩な陽射しと、グラウンドから聞こえてくる部活の声。
教室にはキャンバスに木炭を走らせる音。
ふと木炭を握る手が止まる。
「…皆何で解らないんだろうね?染谷はこんなに綺麗なのに」
"王子様"と形容しても何ら違和感のない綺麗な顔が、うっとりとこちらを見詰めながら溜め息混じりに呟く。
「…嫌みですかソレ?先輩こそ、鏡見た事あります?」
多分異国の血が混じっているであろう、色素の薄い髪や肌を見て白々と言ってやる。
つい2週間程前、俺はこの人、志野先輩に突然絵のモデルを頼まれた。
一体どうして、こんな異国の王子みたいな人が俺の様な平々凡々の後輩の顔をお気に召したのか…。本気で謎だ。
「?鏡なんて毎日見てるさ。変な事言うねぇお前」
「…」
オマケにこの嫌味の通じない所が、KYというか何と言うかちょっとイラつく。
このモデルの件だってそうだ。本来ならば今頃はとっくに家路についている時間だというのに…。
「…鏡見ながら描けば良いじゃないですかって言ったんです。」
「ええーそんなのつまらない。僕は染谷を気に入ってるんだからそれでいいだろう?」
「俺は忙しいんです」
「染谷、帰宅部じゃないか」
「……」
最初、モデルの誘いは丁寧にお断りしていたのだが、俺が了承するまで毎日毎日毎日、つきまとって
俺の顔がどれ程に魅力的かというのを語り始めるのだから、疲れ果てた俺は首を縦に振るしかなかったのだ。
そんな訳で、不本意だが今に至る。
「あ、そうだ!そろそろ休憩にしよう。今日のおやつは特製手作りクッキーとマフィンだぞ~」
じゃーん!と言いながら先輩が学校指定の鞄から菓子の包みを取り出す
「じゃあ俺はお茶淹れます」
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