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  机を向かい合わせにくっ付けてお茶の用意をする。 お茶を淹れ終わると 紙皿に乗ったクッキーとマフィンが2つ用意されていた。 「戴きます」 「はい、召し上がれ」 紅茶で一息つきつつ 「凄いな…」 手作りクッキーを一つ摘まんで綺麗に搾り出されたその形を見つめる。 先輩はコーヒーを啜りながら「何が?」と言った。 安物のマグカップも、先輩が持つと高級品の様に見えるから不思議だ。 「何でこんなに器用なんですか?」 そう尋ねると、先輩はふふっと嬉しそうに笑って 「美味しいかい?」と尋ね返してきた。 「はい…まあ」 正直に言うと、もの凄く美味い。 いつも俺が先輩の作ったお菓子を食べていると、味はどうだとニコニコ尋ねられるから困る。 だって悔しいじゃないか。こんな綺麗な顔して頭も良くて、器用だなんて。 何より困るのは 最近どうも、この天然王子と居る時間が楽しいと思ってしまっている自分だ。 「なぁ…染谷、何か今日顔色悪くない?ちゃんと寝てるか?朝食もいつも食べないみたいだし」 「大丈夫です。今日は自習があったんで、その時スゲー爆睡しました。」 俺は家庭の事情で深夜までのバイトをしている。 先輩はそれを知っていて、いつもそれとなく気にかけてくれている。 「そうか…あんまり無理するなよ。」 「だったら俺の代わりにバイト行って下さいよ」 照れ臭くて茶化した答えを返した。 心配されるのが何だか嬉しくてくすぐったい。 「そうだなぁ…週末ならなんとかなるかも」 「ちょっと、何真面目に答えてるんですか。冗談ですよ」 「はは、そうか。ごめん」 ああもう… 成績優秀、容姿端麗、おまけにお人好しなんてどんな嫌味だ。 この手作りのお菓子も、食の細い俺が唯一甘いものが好きなのを知っているからだ。 部室に常備されている、インスタントコーヒーと並んで置いてある紅茶のティーバッグも、コーヒーが苦手な俺の為。 「……」 …優しくされると困る。 勘違いしてしまいそうで。 「…ホント困る」 俺がボソリとこぼすと、先輩は「ん?何か言った?」と訊ねてきたが、 何だか悔しいので聞こえない振りで無視してやった。 .
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