第一章 狂い咲き

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第一章 狂い咲き

―甲賀の里― 里から離れた山中に 甲賀の忍び達の住む 甲賀屋敷があった。 その屋敷へと続く山道を 網笠を深々と被り 黒の薄手の着物を身に付けた男が 歩いて行く。 山桜が道の両脇に咲き乱れ 春の暖かい日差しが 優しく照りつける。 一本の大きな桜の木の前で立ち止まり 見事に美しく花を咲かせた木を見上げ 男は 口元に薄く笑みを浮かべる。 「そなたは 相変わらず 美しいのう…。」 呟くと 男は 甲賀屋敷のある方に ゆっくりと 顔を向ける。 「せめて そなたが美しい間 戦いはしたくないものじゃな。」 男は 再び 道を歩き出す。 川のせせらぎと 風の音だけが 静かに響く。
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