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包まれた腕の中で振り返ると、今度はおでこに唇が触れた。
この腕の中は大好きだけど、毎朝功さんに注意していることがある。
「…功さん。」
口にする名前に、批難の色を込める。
今度は頬に口付けしようとしていた目の前の人物は、ピタリと動きを止めた。
私が言わんとすることに、気付いたらしい。
毎朝、言ってるからね。
ふわっと、体が浮いた。
どうやら、功さんに抱き上げられたようだ。
対になった黒い目が、私を真っ直ぐに見つめている。
「…おはよう、ユウ。」
功さんは私を抱きしめたまま、柔らかく笑った。
笑顔につられて、私も笑う。
「おはよう、功さん。」
挨拶は好きだ。
相手を想う故に、出て来る言葉だから。
功さんとの共同生活を始めて、もう2年になる。
朝はおはようの言葉とキスを交わして目を覚ます。
夜はおやすみの言葉を言って、功さんの腕の中で目を閉じる。
同棲という響きは、似つかわしくない。
何故なら、功さんと私は、恋人ではないからだ。
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