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友達では、ない気がする。
友達よりも、距離は近いから。
仲のいいお兄ちゃんと言ったところかな。
「コーヒー飲みたいよ。」
なかなか下ろしてくれない功さんに痺れを切らし、そう言ってみる。
私を抱っこしたまま、胸に顔を寄せていた功さんは、ようやく顔を上げた。
そのまま、顔を寄せてくる。
功さんの唇が、耳に触れる。
「俺が入れてあげる」
私をソファーに下ろし、功さんはカウンターに立つ。
カフェで働く功さんは、キッチンが似合う。
黒縁の眼鏡を掛けた功さんの顔をじっと見つめる。
優しい雰囲気を持つ功さんの姿は、見ていて飽きることがない。
こんなにもキッチンが似合うのに、功さんは決して家で料理を作らない。
待っているお客さんがいない家では、完璧になるまで作り続けてしまって、終わりが無くなってしまうから、らしい。
そんな完璧主義の功さんなのに、適当がモットーの私の料理に「美味しいよ。」以外の言葉を言うことはない。
そんなことを考えていると、コーヒーの香りが流れて来て、功さんがマグカップを持ってくる。
「ありがとう。」
お礼を言って受け取ろうとすると、功さんはマグカップを離してくれない。
それじゃあ飲めないよ?
首をかしげると、功さんはにっこりと笑う。
柔らかく笑う功さんも好きだけど、こうやって悪そうに笑う功さんも好き。
「卵焼き。」
どうやら、ただの朝食のリクエストだったらしい。
それだけ言うと、功さんは手を離してくれた。
代わりに、私を後ろから包み込むように、ソファーに座る。
「うん。」
私もそれだけ小さく答えて、コーヒーに口を付ける。
功さんと暮らし始めてから、朝のメニューに卵焼きが上がらないことはない。
でも、実は目玉焼きの方が好きってことは、功さんには内緒。
今日の天気は晴れ。
雇われ店長をしている路面店から、綺麗な夕焼けが見られるだろう。
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