雨の水曜日

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路地裏に入ると、ユウの店が見えて来た。 それと同時に、ユウの姿も目に入る。 店の前、ひさしの下に、大きめなキャンピングチェアーを広げ、その上にちょこんと座っている。 目線は、限りなく雨を放出している、空を見上げている。 「お嬢さん、仕事中?」 横に立っても反応しないユウに、そう声を掛ける。 気付いてないんじゃなく、気付いてない振りをしていることも、もちろん知ってる。 ユウは、ゆっくりと大きな瞳をこちらに向ける。 悪戯を成功させた子供のような、嬉しそうな目線。 そんなユウが面白いから、気付いてた、なんて口には出さない。 「キャンピングチェアーの良さを、道行く人にアピールしてたの。」 小走りで店内に入ってしまったユウの代わりに、キャンピングチェアーを折り畳む。 雨で客の引きが早く、手持ち無沙汰で空を見てたのだろう。 ユウは空が大好きで、昼でも夜でも夕方でも、飽きもせずに空を見ている。 仕事を引退したら、雲に成りたいんだとか。 「それなら俺は、それを包む青い空に成るよ。」 そう言うと、嬉しそうに笑った。 可愛い奴だ。 今日は帰りにスーパーに寄って、ユウの好きなアボガドを買って帰ろう。 種を綺麗に取り除けずに、拗ねて、でも俺には替わろうとしない、意地っ張りなユウの横顔を見ながら、コーヒーを飲もう。 そして2人でご飯を食べて、ご飯のお礼に抱き締めてあげよう。 俺は傘を外に立て掛け、海より深い藍色のシャツを持った、ユウを追って店に入った。
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