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満月の夜。
周りは民家もなければ明かりもない森林。ただえさえ暗い夜、月明かりを段々と折り重なる木の枝や葉が遮り、より一層闇を深める。そんな闇に惹かれ、夜行性の魔物が数多く集う所でもある。通常、こんな所を通る者などいるわけもなければ物好きもいない。
しかし、それを知りながらも平然と歩く男がいた。
「……あぁ、腹減った……死ぬ。いい加減に死ぬ」
その声は子供のように高くは無く、低すぎる事も無い成人男性の高低音。その声の持ち主はしきりに腹部を押さえつけては空腹時特有の痛いような気持ち悪いような感覚を紛らわす。
「くっそ、魔物が食えねぇとかどんだけ使えねぇんだよ。ただの塵っカスじゃねぇか……魔物のせいで兎もいやしねぇ」
500年前の戦争の影響か、多くの動物がその生態系を大きく変えた。
触れれば麻痺する体毛。刃の一切を許さぬ皮。かすり傷で毒する花。大きさは勿論その体質まで変化させ凶暴化した生物を魔物と総称し、それらの共通点が全ての部位が食用に用いれないという利用性の無い物となっている。
「………んあ?なんだありゃ…」
空腹感に完全敗北の白旗を掲げる寸前で森の奥で何かを見つけた。木々の生い茂る暗闇の先、僅かに光るオレンジの微光が男の目に入る。
「どぉ見ても灯りだなありゃ……かすかに揺らいでやがるしなぁ」
暗い中で目を細めて見る。人為的な灯りと判断した男は妖しく笑みを浮かべる。
「よぉしよし。俺は随分と運があるようじゃねぇか。飯でも分けて貰おうじゃないの」
男は先程とは打って代わり楽しげで嬉しげな顔で森の奥へと姿を消す。
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灯りが微かに自分を照らす距離にまで近付いた時、話し声が聞こえ出来るだけ気配と足音を殺して様子を伺う事にした。
灯りの正体は焚き火らしく、それを囲うように十数人程度の男たちが座り込んでいて笑いあっていた。
(魔物が活発な夜の森で宴会ったぁ随分スリリングじゃねぇの……夜族か?)
夜族とは夜を限定に町や村を襲う無法者の総称で、やることは盗み殺し誘拐放火と悪行の限りを欲望の限りやり尽す。
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