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「ほら見ろ、やっぱ雨じゃねえか」
『ふん』
携帯を持ったまま、ベランダに面した窓から外を眺めた。
夕方から降りだした雨は、時々止む気配を見せながらも、結局この時間まで降り続いていた。
七夕に付き物の天の川なんて、東京じゃ拝める筈もないし、それが一体空のどの辺りに出るのかだって知りはしない。
子供の頃に読んだり聞いたりした、織姫と彦星の伝説さえうろ覚えだった。
今までは。
「いつ帰る?」
とりあえず、俺にとって大事なのは、今日の天気じゃなくて、あのひとが戻ってくる日。
『そうだなあ……』
しん、と静かになった向こう側。
息遣いさえ聞こえない。
ああ、またトリップしてんだな。
携帯片手に、この国の南の果てで、夜空を見上げるあのひとの姿を思い浮かべた。
『明日』
「え…?」
囁くような声が聞こえて耳を澄ます。
『明日帰るよ』
「…そう? 早いじゃん」
笑う声が耳に心地良い。
鍵を開けて、重いサッシの窓を開ける。
エアコンの効いた部屋に、湿って温かい空気が流れ込んだ。
あんたがいる場所も、同じように暑い空気が流れてるか?
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