酒涙雨

3/3
前へ
/52ページ
次へ
「早く帰って来いよ」 『…ん』 「あ、」 『何?』 少し考えて。 「何でもない。 気をつけて帰れよ」 待ってるから。 日本の七夕が、この時期になったのは結構新しいんだってさ。 その前は中国かどこかの暦で、秋だったんだぜ。 今でも旧暦で七夕をする所もあるし。 旧暦ってわかる? つまり、…まあいいや。 七夕って雨が多いのは知ってる? 東京じゃあ50%の確率で雨。 それでさ、七夕に降る雨の名前を酒涙雨、さいるいうって言うんだって。 織姫と彦星が流す涙のことらしくてさ。 雨が降ると川が氾濫して、二人は会えなくなるだろ? だから酒涙雨。 『どした…?』 「いや、別に。 …なあ、秋になったら天の川見ようぜ」 『秋に?』 「そう、秋に。 きっと綺麗に見えるから」 『…いいよ、一緒に見よう』 「一緒にな」 その時はきっと、綺麗に見える場所だって探しておくから。 会えなくて、涙みたいな雨が降る七夕じゃなくて。 上弦の月が明るく照らす、天の川を二人で一緒に。 M
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

283人が本棚に入れています
本棚に追加