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『連休もらえたんだ』
あの日、あのひとは朝から事務所に呼ばれてて。
また小言でも言われて来るのかと呑気に構えていたら、会って最初にそう言い放った。
『へえ…、よく貰えたじゃん』
冷えた水をグラスに注いでやりながら、それでもまだ俺は余裕だったんだ。
『ずっと前から頼んでてさ』
『リーダー、今度どこ行くの?』
ハイテンション男が割って入って、意識はそっちに向いたらしかった。
『内緒』
『え~? いいけどさ~、どうせ釣りでしょ? いつ?』
あの時、俺には二人の細かい話なんて聞こえちゃいなかった。
その日に、このひとはいない。
それだけが理解できた全てだった。
「もうすぐ着くよ」
腕をつつかれ、視線を動かせば既に見慣れた路地を曲がった後だった。
この先の角を曲がればマンションに着いてしまう。
「なんか緊張してきた」
「ふーん。 素直じゃん」
お前だからだと言ったら、浮気?と笑われた。
「せいぜい緊張しなよ。 それから、すぐ頭に血を昇らせるのやめなね?」
また子供扱いされるよ?
分かってるさ。
もうずっと、俺はあのひとを追いかけてるんだから。
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