283人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃね」
タクシーを降りた俺に、少しだけ先に一つ年をとった男が窓から手を振る。
「あのひとによろしく」
ニヤニヤと笑うこいつに、思い切り嫌な顔をしてやった。
走り去るタクシーを見送って、トボトボとマンションのエントランスへ向かう。
見上げてもここからじゃ俺の部屋は見えない。
「来てるわけない…か」
オートロックの鍵を開け、中に入り、エレベーターへ向かった。
『誕生日はドラマの連中と飯食いに行くからな!』
『まあまあ、その日に帰るって言ってんだから許してあげなよ』
ハイテンション男がとりなすのも気にくわなくて。
『ぜってー来んなよ!』
吐き捨てるように言って楽屋を逃げ出した。
あれから一度、メールが来たが見てもいない。
多分、これから出かけるとか、いつ帰るとか。
いつも通りのメールだって分かってるから。
だから余計に腹がたって。
「いい年をして、何やってんだか」
ため息はエレベーターの扉が開くまで止まる気配を見せなかった。
.
最初のコメントを投稿しよう!