カム ホーム

5/5
前へ
/52ページ
次へ
「なんで?」 何故居るんだと聞く前に、さっさと包丁を握らされて。 「早くしろよ」 「え? おい…、」 腕を引かれて連れていかれたのはキッチンだった。 「なんだこれ」 「そっちの野菜切っといて」 そして自分は腕捲りした手で刺身包丁を握り。 「それ……」 「真鯛」 やっと釣れたんだ、と笑った顔は生き生きとして輝いて見えた。 「いただきます」 「おう」 リビングのテーブルの前に座る俺を、ソファーの上からニコニコしながら見下ろすひと。 「うまいよ」 「だろ?」 満足気に、身体を乗り出して笑う。 誕生日に自分の趣味を優先させるのかと、不義理を嘆いてゴメン。 あの日、いたたまれなくて逃げ出してゴメン。 女の子みたいに、記念日ってやつに執着してゴメン。 「早くからはっててよかった」 あんたが意外に記念日を大事にするタイプだって、忘れててゴメン。 「どうしても食べさせてやりたくて」 ぶっちゃけ、鯛なんかよりあんたが食いたいって思っててゴメン。 「俺が釣ってきてやったんだから、ちゃんと食え」 相変わらず、俺はガキで。 「ゴメンな」 「何が?」 心底キョトンとしている顔がおかしくて、吹き出した。 「スパークリングワインあっただろ?」 「お? いいねえ」 立ち上がったこのひとの手を握る。 一瞬驚いて。 次に柔らかく微笑んで。 「おめでとう」 囁く言葉を、寄せた唇で吸い込んだ。 誕生日に好きなひとが傍にいる幸せ。 噛み締めたってバチは当たらないだろう? From:リーダー Sub:誕生日 一緒にいてやる M
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

283人が本棚に入れています
本棚に追加