道化師と白い鴉

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 路地裏を男が歩いていた。  淡い桃色がかった白髪に、赤い瞳をした20代後半のように見える背の高い男だ。服装はさながら道化師のようで、顔の右側にはのっぺりとした白い仮面、右手にはシルクハットが持たれている。その表情は笑顔だ。 「白鴉(シロカラス)、そろそろ時間ダ。もうこの【ミクシリス=ファイン】には時間という概念なんてナイんダケド」  彼は、その温和そうな容姿からは考え付かないような無機質な声でそう呟いた。感情が切り取られているような、そんな声だ。  シロカラス、と呼ばれた彼の隣を歩いていた黒髪に灰色の瞳をした少女は自分の首にぶら下がる銀色に鈍く光る懐中時計を見つめながら、少しだけ頷いた。  その時刻は、1時を指している。 「パーティーってのはサァ」  男が笑顔のまま立ち止まる。そして後ろを振り返った。 「楽しまなきゃ損だヨ? 白鴉」  彼は獲物を見つけたように目を見開いた。右側を覆う白い道化師の仮面が月明かりに反射して鈍く光り、目の前にいる悍ましい怪物に少しだが光が当たる。
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