道化師と白い鴉

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 怪物の風貌は獣――まるで狼のようだ。銀色の剛毛に鋭い赤い瞳。そして何より、獲物を引き裂くために研がれた鋭い爪と牙。  それを向けられた道化師は、口角を上げ薄く笑った。 「クククク……俺を殺す気カイ? 貴様みたいナ、下級の《化け物》(タイムズ)が?」  その無機質な言葉に激昂するかのごとく、狼――タイムズは道化師に飛び掛かる。  しかし、タイムズが飛び掛かる前に道化師の前に赤色に光る大きな時計盤が現れ、時を刻む。 「サァ……残念だったネ? もう終わりダ。時刻は1時。俺ノ時間ダからナ……。3、2、1(スリー、ツー、ワン)」  その時計盤が1時を指すと共に、激しい炎が降り注ぎ、辺りを焦がす。地面が焦げる匂い、煙が辺りを覆い隠した。狼の声にならない断末魔が響き渡る。 「俺が契約したのは【1時の時間】。。このタイムズは【2時】。相性はサイアクだヨネェ」  道化師は笑う。全てを嘲るように。 「イマイチ私にはこの時間術の相性がわからないのですが。まあいいです。任務、完了。帰還します」  それを確認した黒い髪に同色の瞳をした少女――白鴉は、小さく息を吐いてから通信機を使いどこかに連絡をとった。 「帰りますよ、ヴェルディ。任務は終わりました」 「オーケェ、白鴉。帰るヨ」  ヴェルディと呼ばれた道化師は白鴉の右手を握り、歩き始める。  その表情は未だに歪んだ笑顔であり、また、どこか無機質さがあった。
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