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それは桜の散る季節だった。
たくさんの桜が道の両側に植えられている。
この道は絶好の花見スポットである。
しかし何故だかこの道は閑散としていた。
ただ美しい桜の花びらがひらひらと、舞っているだけだった。
いつから居たのか、この道の中央を一人の青年が現れた。
一六、七歳だろうか。
漆黒の髪をもつ彼は、とても整った顔だちをしていたが、どうしてなのか彼はこの場所では浮いており、桜が散る華やかなこの場所も、彼のまわりだけは悲しい雰囲気が漂っていた。
青年はしばらくこの道で佇んでいた。
彼は前方のある一点だけをじっと見つめていた。
その視線の先には十代半ばあたりの、白く長い髪をもつ少女が空を見上げていた。
彼女は悲しい顔をしているように見えた。
しかし、黒い瞳以外は全て白一色の彼女の姿は、桜が散るこの道を華やかなものへと変化させていた。
だがやはり彼女も彼と同じくこの道では浮いていた。
『純白』とでもいうのだろうか。
彼女の清純そうな顔だちやその表情、白いワンピース、そして一つのよごれもないような白い髪。
青年はその彼女の姿に見入っていた。
目を一切そらすことなく一心不乱に彼女を見つめていた。
彼はその『純白』な彼女に対し、不思議な感情を抱いていた。
それは『恋』だった。
彼はそのことには気付かない。
いや、気付けない。
彼女に出会った彼は何かが変わり始めていた。
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