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簾の後ろに隠れたままの雪に向かって、貿易商人がご機嫌伺いをなさいました。
「雪や雪、高炉峰の雪はいかならむ」と。
しかし、雪は何も言いません。
しん、とした数秒の後、口を開くと同時に動いたのは、工でありました。
スッと立ち上がると、ズカズカと簾の前まで歩いて行って、躊躇いもなく簾を手で巻きあげてこういったのです。
「そんなもの、簾をあげて見れば良いではないですか」
あげた簾の向こうには、狐につままれたような雪。
なにせこんな店一番の雪にこんな狼藉紛いを働いたのは工が初めてだったのですから。
数秒して笑い出したのは貿易商人。
それから…
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