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ぶらぶら町を歩いたり、小旅行に出掛けたり…
小さな幸せを満喫しながら、あっという間の一年が過ぎようとしていた。
俺もバイトから正社員になり、生活も少しづつ安定してきた。
漠然とした思いではあったが、二人の将来を意識しはじめていた矢先…
突然その出来事はやってきた。
その日の仕事も終わり…
いつもの様に、佳江と二人で歩いて駅に向かっていた。
すると佳江が…
「陽介…私…東京に戻る事になった…」
「えっ⁉」
繋いでた手を思わず離して、佳江の方を見た。
「なんで急に…?」
それしか聞けない俺がいた。
「お母さんの体調が悪いの…一人に出来なくて…悩んだけど、会社に移動願いを出してたの…」
東京に佳江の母親がいるのは知っていた。
母親想いの佳江が、この町に来るまでは、一緒に住んで居たって事も…
「でも…確かお姉ちゃんが面倒観てるって…」
佳江からそんな話を聞いたのを思い出し、震える声で尋ねた。
「うん…でも、お姉ちゃん結婚が決まって、家を出るみたいで…」
俺の中で何かが音を立てて崩れ落ちた。
『佳江は…
俺との将来よりも、母親を優先したんだ…』
そんな下らない思いに俺は負けそうだった…
今にも泣きそうで、怒鳴り散らしそうな感情を抑えて…
「いつ…東京に戻るの…?」
精一杯の強がりだった。
「陽介の誕生日を一緒にお祝いしたら…向こうに戻る…」
俺の誕生日…
二人に残された時間は、1週間しか無かった。
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