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1人脱衣場に残った事。
何かに引き寄せられるように鏡を見ていた事。
そこに黒い人影が映り込んでいた事。
振り向いた時には影は消えていて、心配した慶吾が引き返してきた事。
話している最中、この空間のどこかにあの黒い人影が潜んでいるんじゃないかと気が気じゃなかったが、悪寒を感じながらも何とか語り終えた。
「そうだったんだ……あの時愁介も……」
慶吾と峻悟が愕然とする中、語り終えた後の静寂を雅樹がゆっくりと言葉で埋めた。
俺の事を心配するような優しい口調だった。
――そうか。
「あの後1階の階段下で俺の事をやたらと心配してくれてたけど、そういう事だったんだな」
俺は今更ながら、あの時の雅樹の反応に納得した。
『でも、愁介本当に大丈夫かい? もしかして何か見たりとかしたんじゃ……』
階段下で言った雅樹の言葉が脳裏に浮かんでくる。
だからあんなに俺の事を気にかけていたのか。
雅樹が伏し目がちに頷いた。
「そう、自分でも脱衣場の事は気のせいだと思おうとしたけど、愁介がはぐれた時もしかしたらと思ったんだ……」
「……」
あの時俺は、素直に打ち明けなかった。
雅樹と同じで、自分の気のせいだと思おうとしていた。
俺も雅樹と同じだ……認めたくなかったんだ。
「愁介の言葉で俺は、あの時の事は気のせいだったと自分に言い聞かせながら肝試しを続行しようとしたよ。でもさ……ダメだったんだよ」
「ダメだった……? まさか……」
「そう、俺の行く先々で何回も……体験する事になったんだ……」
雅樹が肩を震わせながら怯えるように辺りを見渡した後、1つ1つの出来事を振り返るように語りだした。
2階へと上がった後直ぐの廊下で見た黒い人影。
宴会場の襖を開ける前に聞こえた足音。
宴会場の奥の襖を開けた後の通路にいた黒い人影。
そして、3階の最初に調べた客室で、障子の向こう側に見えた黒い人影。
雅樹は恐怖に怯え、苦しそうに呼吸を乱しながらも、これまで体験した出来事を矢継ぎ早に語っていった。
――そういう……事だったのか。
雅樹の話を聞き終えた俺は、これまで空白だった解答がすらすらと埋まっていくのを感じた。
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