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――そんな……。
頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
体から力が抜けていくような感覚を覚えた。
ぐらぐらと視界が揺れて、気を抜くと膝から崩れ落ちてしまいそうだった。
「愁介……」
ふらつく俺を見かねてか、慶吾が体を支えてくれた。
呆然と慶吾の顔を見ると、いつになく真剣な表情をしていて、その瞳は俺よりも数段落ち着いているように見えた。
慶吾だって酷く動揺しているはずなのに……。
――俺も、落ち着かないと……。
慶吾から冷静さを肖るように、一度目を閉じ、小さく息を吐いた。
震えるような息がこぼれたが、暗闇に覆われていた視界に微かに光が差し込んだ気がした。
ほんの少しだけ気が楽になった。
「大丈夫……サンキュな」
俺は礼を言って慶吾から離れると、ポケットの中にゆっくりと手を入れた。
指先に確かに伝わる硬い感触……触れていると指先から腕を伝い、そして体内へと力が湧いてくるような気がした。
鉛のように重たかった体が軽くなっていくのを感じた。
――そうだ。
まずは落ち着いて、1つずつ状況を確かめていくんだ。
これがもしも現実なら、目を背けてはいけないんだ。
落ち着いて、冷静に対処していくんだ。
「……続けるよ」
気持ちの整理がついた所で、雅樹はタイミング良く話を続行した。
「最初に見たのは1階の脱衣場。皆で鏡を見ていた時だね。鏡に黒い人影みたいなものが映ってたんだ。部屋の隅っこに、ゆらゆらと蠢いてるみたいに……居たんだよ」
混乱しそうになる頭に鞭を打って、雅樹の話に必死に耳を傾ける。
あの時、鏡を見ていた雅樹は確かに、何かに怯えているような、怖がっているような素振りを見せていた。
鈍感そうな雅樹がやたらと怖がっていた事に対して、俺は微かな違和感を覚えていた。
その違和感の正体は、こういう事だったのか。
――実際に見てしまっていたのか。
今思えば、あの時から雅樹の様子が少しずつおかしくなっていったような気がする。
これが、始まりだったんだ。
あの時には既に、体験していたのか。
「……俺もなんだ」
弱々しく呟いた俺の言葉に反応して、3人が俺に意識を向けた。
もう、受け入れるしかなかった。
雅樹もあの場所で見ていたのなら、俺のも見間違いではないのだろう。
――あそこには、黒い人影が居たんだ。
「実は俺もあの時――」
俺はあの時、脱衣場で体験した事を包み隠さず3人に打ち明けた。
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