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「貴様が我が娘を浚わせたのだろう!?」 上等な紅のマントに、着るのは貴族よりも更に階級が上の衣服、口と顎に逞しい赤い髭を蓄えて、途方もない濃密な威圧感を放つこの姿はまさしく、この国の支配者だ。 つまるところ、この国の王である。 そんな国王が磔にされている紅が目立つ少女、ティラ=カルアスに向けて、声を荒げてそう言い放った。 「わ、私は貴様の娘のことなど知らないっ! 何かの間違いだ!」 ティラは手足を繋がれた黒い鎖に力を込めて弁明するが、国王は聞く耳持たずの状態である。 「見た目がその様でも、遠慮はしないぞ。私の娘を浚った者は確かに魔王の部下だと名乗ったそうだ。ラクリマにも写されていた通り、魔王城に居た貴様以外の何処に魔王が居る?」 「違うんだ……」 ティラは今にも泣きそうな表情で、小さく異論を唱えるが、国王は聞き入れずに、鼻で笑う。 「その姿も擬装のつもりなんだろう? その姿になれば同情を引けるとでも考えているのだろう?」 国王は大切な娘が浚われたせいで、いつもの冷静さなど皆無。普段は出さないような言葉を出してくる。 「……もうどう足掻いても意味がなさそうだな。それなら私は……何の反論もしない……」 ティラは諦めたように呟き、静かに瞳を閉じた。 ――イアン……。
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