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昨日敦史はこの辺に投げたんだ。
細い溝と、雑草が生茂った小さな空き地で、高い鉄柵を越えなければ線路には入らない。だから、溝に落ちたか、この空き地に落ちたはず……。
私は必死にら敦史との思い出を――敦史との繋がりを失いたくない一心で探し続けた。
途中、ポツリ、ポツリと雨が降ってきた時、
「何やってるの!」
振り向くと、傘をさした老女が立っていた。
「探し物なんです」
「なにをぉ?」
「ストラップ……携帯電話に付ける、キーホルダーみたいなものを」
「キーホルダー?」
「みたいな、はい」
老女が困った顔をする。
「ここ、私の土地なのよぉ」
「す、すみません」
「雨降ってるし、また今度にしたら?」
「……はい」
私は何も言えずに空き地から出ると、老女は傘を私にもさしてくれた。
「キーホルダー、見つけたらとって置くわ」
「ありがとうございます……。明日も来て、探していいですか?」
老女は困った顔ながらも、仕方ないというように、うんうん、と頷いた。
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